言葉のない灯
消された聖火が再び灯ったとき。
鏡が映し出したのは、あたしも知っている人だった。
「カザン……なぜ……」
一緒に鏡を覗いて“聖火の記憶”を見ていたヒカリくんが、つらそうにその人の名前を呼ぶ。そりゃ、そうよね。ヒカリくんにとっての大事な……“友”だったんだから。
あたしも、信じられない気持ちだった。カザンさんは不思議なところもあったけど、あたしの知る限りいつだってヒカリくんの夢の為に頑張ってくれた人だった。あたしなんかじゃ想像もつかないくらいのすごい脳みそで、血の流れないク国をを望んだヒカリくんを力強く助けてくれていた。
そんな人が、明日を望まない人たちのひとりだったなんて。
ヒカリくんを助けてくれていた理由が、ずっと明けない“夜”を呼ぶための策略、だったなんて。
信じられないよ……どうして……?
ヒカリくんは、ぽつぽつとあたしに教えてくれた。カザンさんはヒカリくんが小さいときから一緒で、いつも血の流れぬ世のことを語り合っていたって。そんなカザンさんの理想と自分の理想は違うものだったのか、って、寂しそうにつぶやいていた。
あたしは、何も言えなかった。
何も言えなかったけど、やがてヒカリくんは微笑んだ。
「止めなければ、俺たちが」
カザンさんを止めに行く。
血の流れない明日のために。みんなが幸せになる明日のために。
「そうだね。……あたしたちで取り戻そう」
あたしは力を込めて頷いた。そしたらヒカリくんも頷いて、それから鏡をソローネさんに返しに行く。ソローネさんは黙って、アルパテスさんが残してくれた鏡を荷物の中にしまった。
次はどこへ行くべきか、みんなわかっていた。必要なことは、全部夢と聖火が教えてくれていた。
その場所へ向かおうとするヒカリくんの背中はいつも通り真っ直ぐで、それで……格好よかった。
──ヒカリくんは、強いなあ。それに比べて、あたしは。
「ごめんね、ヒカリくん。あたしってばほんと駄目だべ」
「……アグネア?」
ヒカリくんが怪訝そうに振り返る。あ、違うよね、心配してくれたんだ。ヒカリくん、優しい人だもん。
「せっかくヒカリくんが……カザンさんのこと、あたしに言ってくれたのに、あたしったらなんも気の利いたこと言えねえんだ」
こんなこと言っちゃうのも、あたしがヒカリくんの優しさに甘えてるだけだ。言ってから、やっぱり黙ってれば良かったって思ったけどもう遅い。
「こういうとき、オズバルドさんとかみたいにヒカリくんを元気づけられたら、良かったのになって……」
あたしは、旅をしてきたとはいえ田舎育ちの世間知らずだし、頭だって良くないし。
ヒカリくんのことだけじゃない。みんながこれまで生きてきた旅路のことも、これから生きていく旅路のことも、あたしはきっと本当には分かっていない。
あたしのことはみんなが助けてくれたけど、あたしが同じようにみんなを助けることができたのか、……今だって、自信がないんだ。
でも、俯いてしまったあたしに降ってきた声は、優しかった。
「何を言う、アグネア。俺は十分元気を貰ったぞ」
「え……? でもあたしほんとに何も」
「共に、カザンのことを思ってくれただろう?」
「……」
そういってあたしを見るヒカリくんの黒い目も優しくて、やっぱり何も言えなくなってしまった。
呆然とするあたしに、ヒカリくんは言葉を続ける。
「そなたはいつでも、他人のことに心を砕いて寄り添っていたではないか。先程だってそうだ。そうして同じように思いを分かち合ってくれたからこそ、俺は前を向けたんだ」
「そうなの?」
あたしは首を傾げる。何も言えなかったけれど、確かにカザンさんのことを考えてた。きっと傷ついただろうヒカリくんが心配で、そばにいたいと思ってた。
それだけで、良かったのかな。
「ああ。そうやってアグネアが共に在ってくれるから、俺もついつい、カザンのことを話してしまった。……そなたの優しさに、甘んじてしまったのかもしれぬな」
「そんな、甘えてるなんて」
甘えてるのはあたしの方なのに、どうしてヒカリくんはこんなに優しいんだろ。
いつもそう、あたしはヒカリくんの心のあたたかさに助けられてる。だから、あたしだってヒカリくんを助けたい。明日を取り戻すために、もう少し一緒に。
「ヒカリくんはいつも頑張ってるんだから、もっと周りを頼っていいと思うよ」
「そうか? ……そうだな」
ドキドキする胸を抱えながら言った言葉に、ヒカリくんが頷いてくれる。
「厳しい戦いになるだろうが、もう少しだけそなたを頼らせてくれ」
「うん! 頑張ろう、一緒に!」
だからとびきりの笑顔であたしも応える。
本当は、ちょっと嬉しいんだ。戦うのは怖いけど、こうして一緒に同じ目標に向かって頑張れることが。
だってわかってるから。この旅が終わったなら、あたしたちはどうしたって別々の道を歩いていかなきゃいけない。明日を取り戻せなかった時のことなんか、考えないんだから。
「……ふ、その顔だ。アグネア」
「ん、なに?」
拳を固めたあたしに、ヒカリくんが突然言う。
「そなたは笑顔がよく似合う。俺はそれで何よりも力を貰えるよ」
どきりとするくらいの柔らかい微笑みで、なんだかすごいことを。
「え……あ、」
危うく洞窟中にあたしの声が響くところだった。ヒカリくんは、何事もなかったかのようにすたすたと歩いている。
──ちょっと、なに言ってんだべ、ヒカリくん!!
笑顔を褒められたばかりなのに、なんだか泣きそうになってしまった。どうしてこんなに胸が苦しいのかな。
あたしだって、あたしだって。
言いたいけど、言っちゃいけない気がしてぐっと飲み込んだ。形にしたら、それこそ明日が壊れてしまうかもしれないから。あたしたちそれぞれが望んだ明日の姿に、この気持ちが望まれていないことはわかっているから。
それでも言葉にならない灯は、ずっとあたしの胸の中で燃えている。
【ちょっと長めの後書きと言い訳】
この話の主題は前半で終わっています。笑
静かの洞窟でのPTチャット、アグネアがほんっとになにも言わなくて、そりゃそうだよね言えないよね…と思いながら見ていたのですが、それでもヒカリくんはアグネアにカザンのことを言いたかったんだな~と思うとそれがまた味わい深く。
クロスストーリーの組み合わせという神の意志が介在しているとはいえ、ヒカリがカザンとのことを打ち明けるのに選んだ相手はアグネア、その事実が尊い。と思ってエクストラプレイ中からずっと書きたかった場面です。
というわけで、CPとしてのヒカアグ要素というのは相変わらず話の主題から外れているんですが(まあそうでもないかも)、個人的にヒカアグを消化/昇華するために、2人の最終章~エピローグにかけての物語を書きたいなと思っていたので、これはその一部分、プロトタイプと思って頂ければと思います。
連作の方はどうなっているか……乞うご期待(?)
privetter公開: 2023/7/5