あなたの星になりたい

Postlude: 親愛なるヒカリくんへ

 ヒカリくんへ、お元気ですか。なんて、聞くまでもないかなって思っています。
 だってデルスタタイムズにも載るくらい、ク国が活気を取り戻しているのをあたしは知っているからです。ヒカリくん、毎日とっても頑張ってるんだよね。
 ちゃんとご飯食べてますか? 夜遅くまでお仕事してるのかもしれないけど、ちゃんと寝ていますか?
 ヒカリくんは剣士で旅の間は毎日お稽古してたけど、今はお稽古できてるのかな。王様ってあたしが想像する以上にとっても大変だと思うから、どうか無理はしないでね。
 あたしの方も一応、頑張ってるつもりです。ク国にまで伝わっているのかなあ……ク国には新聞ってあるのかな? わからないけど、このチケットできっとヒカリくんにも分かってもらえると思ってます。
 なんと、ニューデルスタの大劇場公演だよ! 新しい歌もちゃんと作ったんだ、楽しみにしててね。『きぼうのうた』も歌うから、聴きながら旅のことをなつかしく思ってくれたら嬉しいです。


 ……なんて書いたけど、ヒカリくん王様だもんね。海を渡ってニューデルスタまで来られるのかな?
 舞台が終わったら、旅したみんなで打ち上げもしたいなって思ってるんだけど、どうかなあ。チケットはストームヘイルのライ・メイさんにも送ってあるから、ヒカリくんも久しぶりに会えたらいいんだけど。
 忙しいだろうし、いろいろ事情もあると思うけど、舞台からヒカリくんの顔を見るだけでもできたら嬉しいな。旅が終わってから、ずっとヒカリくんにだけは会えていないから。
 もし打ち上げで会えたら、旅が終わったあとのことをいろいろ話したいです。ヒカリくんのお話も聞きたいな。毎日どんなことしてるのかな、とか、ベンケイさんやミッカさんが元気かどうかも聞きたいです。
 ……ミッカさんて、リツさんの妹さんだったよね? 色々あって、うちの妹のパーラがミッカさんと仲良くしてるんだ。パーラったらお調子者のところあるから、おしとやかなミッカさんが仲良くしてくれてるのが不思議だなって思うんだけど。


 不思議っていえば、今思うと旅の間、ヒカリくんとあたしが仲良くおしゃべりとか、いろいろなこと一緒にできたのも、奇跡みたいだなって思うことがあるの。なんだか夢みたいだったなって。夢じゃないのは、ウェルグローブで買ってくれた組紐があるからわかるんだけど……(あの時は本当にありがとね。今も大事にしてるんだよ)
 ヒカリくんは、どう思いますか? なんて。聞かれても困るよね。
 あのね。
 ……あたし、あの時どうしても言えなかったことがひとつだけあるんだ。本当はあの時にもどっかでちゃんと言わないといけなかったと思うんだけど、なんでかなぁ、勇気が出せなかったの。
 今言うのも変かもしれないけど、お手紙だし、時間も経ってるし、いいかなって。あたしの勝手な思いだから、聞いてもらえるだけでいいから。お返事とかは気を遣わないでね、ほんとに。
 ああもう、早く書けって話だよね。いよいよになっちゃって、どうしてもドキドキしちゃってさ。
 うん、今度こそ。あのね、あたしあの時、ヒカリくんのこと



「アグ姉! いつまで寝てるんだべ!?」
「パーラ!? いま手紙……うそっ、もうこんな時間!?」
 彼女は椅子から飛び上がった。持っていたペンが投げ出され、インクの雫が落ちる。書きかけの文字が並んだ紙を一瞬眺めた後、彼女は折りたたんでそれを抽斗の奥に仕舞った。
 舞台衣装や入用のものを支度した鞄を小脇に抱えると、彼女は部屋を出ていく。また新たな旅のために。
 仕舞われて、置き去りにした想いに、光が差す時は訪れるのだろうか。
 ──それは、未だ見ぬ明日の話である。



  【Fin.】



【ちょっと長めの後書き】


 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
 思えば発売前トレーラーでクロスストーリーのチラ見せがあったときから、ヒカアグは「絶対にこの二人は可愛い!」と思っていた組み合わせでした。だから主人公をアグネアに選んだ…というわけではないですが、己の勘と欲望は間違っていなかったなあと。
(主人公をアグネアにしたのは、音楽を主にしたシナリオが気になったからです。踊りと音楽はそもそも縁が深いはずなのに、前作ではまったくフィーチャーされてなかったのもあり)


 クロスストーリーもPTチャットも期待通り、間違いなく相性抜群で間違いなくかわいかったのですが、ただ…なんというか…「すっごくお似合いで公認なのに、卒業を機に進路が違っていくことで自然消滅していっちゃう学生カップルみたいだなあ…」というのが、プレイして感じたヒカアグの正直な印象でした。まさに青春というか。
 なにしろアグネアの旅(=人生)の目的とヒカリの置かれた立場の相性が恐ろしく悪くて。王子っていう身分は旅しているくらいの期間でどうにかできるもんじゃないし、彼とずっと一緒にいるためにアグネアが世界中を回る夢を諦めるのも違うのでは?と悶々とすること約1年。
 ということでこのお話には、そういったわたしが持っている印象と旅路をそのまま描きました。アグネアを4人目に最終章終えて、その後テメノス⇒オーシュット⇒オズバルド⇒ヒカリの順で攻略しているのもプレイ当時そのままです。
 ヒカリを最後にしたのは『一番ヒロイックでRPGのラストっぽい』という理由だったんですが、お話の書きやすさという点では大正解だったなと思っています。あとテメノスがすごく良い仕事をしてくれたなぁと。
 おかげで、普段はほぼハッピーエンド/すっきりした結末を書くようにしているわたしにとっては、すごく珍しいタイプのお話になりました。今後二人が選んだ“明日”が変化するのか否か、にかかわらず、ゲーム本編の中での旅に即した場面という範囲の中では、これが精一杯のものだったと思います。
 たとえ心から望んだ結末とは少し違う結果になったとしても、葛藤して選択したひとの過程が描けていたら幸いです。


 さてその“明日が変化するのか否か”という点ですが。一応、伏線はあちらこちらに張ってはあります。続きが書けたらいいなという気持ちもあります。
 何よりヒカリくんが何を考えてたのか、この話だとまったくわかりませんからね…!!(わたしもちょっとわかんないとこあるよひかりん)
 もし書くならいろいろ取材する必要がありますし、2周目やってみたりロケハンの為にガルデラを倒したりもしたいので、だいぶ先の話になると思いますが。ifでもなにかしらの結末を考えられたらいいな、と思います。


 最後になりますが、ここまでお話を読んでくださった皆様、執筆中から応援してくださった友人やSNSフォロワー皆様方へ、心からお礼申し上げます。最後まで書けたのは皆様のおかげです。ありがとうございました。
 それでは、またどこかでお目に書かれますように。


2024/8/4 連載完結